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 わたしはきっと、ただ邪魔をされたくなかっただけだ。

 泣きたい時に泣きたかった。
 笑いたい時に笑いたい。
 考えたいことを考えたい時に考えたい、

 それなのに、無理やり「こっちを見て」と、顔を掴まれて目線を向かせられるような、
 自分の見たいものを見つめることを悪とされるような、
 そんなものを感じ取って、それが、辛かったのだ。


 わたしの見たいものは、とても形而上学的だ。

 いつかは消えてしまうこの瞬間のこと、
 いつかは別れの時が来る愛する人のこと、
 いつかは死んでしまう命のこと、
 誰にもどうにもわからない運や縁のこと。

 神という人も、神秘という人も、宇宙の法則という人もいる、そんな、誰にもわからないことを、
 けれど確かに感じる何かを、わたしは自分の中心に置いていたかった。

 だから、それ以外に無理やり目を向けさせられることが辛かったのだと。


 何よりも自分を邪魔していたのは自分だけれど、
 自分を邪魔するのもまた、うるさい周囲の声を内面化してしまったからだ。

 ちゃんと学校に行って。
 ちゃんと友達と仲良くして。
 ちゃんと周囲に馴染んで。
 ちゃんと就職して。
 ちゃんと自分の食い扶持を自分で稼がなければ。

 と。

 ……でもわたしは、そんな人間じゃない。

 自分が誰よりも芸術家であることを知っているから、
 芸術家、つまり、理想や、形而上学的な価値を追求する人間だと知っているから、

 だから、そんな自分を罰していた。

 そんなんじゃ生きていけない、
 何の価値もない、
 って。


 形而上学的な価値を求めるが故、貧乏で、嫌われ者で、笑われ者の芸術家……という像が、わたしの中にある。
 周囲の人に迷惑もかける。
 鼻つまみもの。

 わたしはそれになりたくなかった。

 全然何もできなかったけど、家族にも心配かけたくなかったし。
 そのために10年頑張ったけどうまくいかなかった。

 でも、今、わたしは自分のことをどう思っているかというと、
 そんな人間だ。

 神秘を、自分だけの価値を、求めている。
 だから日常世界に馴染めない。学校生活になじめない。就職もしんどい。
 そんなわたしが求めるもの、好きなもの、伝えたいことは、伝わらないし好きになってもらえない。
 だから生きていけない。

 それって、俗世間がいう社会不適合な自称芸術家像にぴったりだ。
(自分が芸術家であるということには疑いは持っていないので、自分で自分を「自称芸術家」とは思わないけど。「芸術家」だと思っている)

「理想を追い求め、
 足元が見えていな」くて、
「よくわからないことをやって」いるし、
「自分で生きていくこともできない」くせに、「口だけは達者」。
 そうなりたくなかったのに、そうなっている。

 わたしからしたら、なぜ生きるのかを考えない人の方が足元見えてないし、自分で生きてもいないと思うけど。

 それはともかく、わたしは、そんな芸術家もどきとして嫌われたくなかった。
 そのことを、今まで知らなかった。


 でも、どんなにそうなりたくなくても、わたしは「そう」だ。

「わたしはそんな芸術家じゃないので、ちゃんと将来のこと考えてるので」って、認めてほしかった。
 そのためにたくさん頑張った。
 うまくいかなかったけど。

 とんだ、徒労だ。

 わたしはもともと頭がいいし深く考え込みがちなので、憧れの人たちが言っていた、「馬鹿にされたくないから頭がいいふりをしていた」や「遊んでると思われないように苦労もしてるんですけどねアピールをしていた」という言葉がよくわからなかったが、今、少し分かった。
 わたしも同じだ。

 わたしは、「夢ばかりを追いかけているダメな人」になりたくなかった。
 芸術家=ダメ人間になりたくなかった。
 でも、どんなに頑張っても、それ以外にはなれなかった。

 でも、わたしは結局、芸術家でダメ人間だ。

 じゃあ、自分じゃないものになろうとするのは、もうやめよう。


 誰かに好きになってもらおうとするんじゃなく、
 わたしが考えたいこと、求めるもの、追究したいもの、面白いと感じるもの、そのわけ、掴んだもの、それらを、全て見せていこう。

 生きていくことなど、どうにでもなるさ。

 今自分が感じていること、
 今自分が考えたいこと、
 それだけを、突き詰めていくんだ。


 命のことを考えたい。
 愛のことを、
 魂のことを、
 運のことを、
 縁のことを、
 時のことを、
 血のことを、
 呼吸のことを、
 体温のことを、
 色んなことを。

 それに何の意味があるかと問われても、
 自分だけの大切な意味があるからだ。
 何の役にも立たなくても、
 いつか誰かの救いになる。

 そこから人間は始まった。


 わたしは真っ当な大人になれない。
 それは何かが劣っているからではなく、
 ただ興味を持つものが、決定的に違っただけだ。


 自分の本望に、今こそちゃんと息を吹き込むんだ。
「真っ当な大人」に、「ダメな芸術家じゃなくてちゃんと考えてる子」になるために、労力を注ぐんじゃなく。
 今この瞬間を生きろ。


 自分の作りたいものを、作り続けろ。


 そのために、自分にとって素晴らしいものを集め、汚れを落とし、磨き、飾り続けろ。