マーシャル・マクルーハン+エリック・マクルーハン『メディアの法則』NTT出版 2002年
の講読メモです。
水色の箇所は本の内容ではなくわたしの感想や推察です。
灰色の部分はわたしの注です。
緑色の部分は、文章の内容としては脇道だけれども、わたしの興味を引いたので抜粋した部分です。
この記事ではコメントを許可しているので、わたしが何か間違ったことを書いていたり、問題のある書き方をしていたり、耳寄り情報があるなどの場合は、コメントに書き込んでお知らせいただけると大変助かります!
第一章(p.23〜)
p.24~26
諸感覚がともにダンスするとき、変身ートランスフォメーションーが経験の共通感覚モード
変身=メタモルフォーゼではない。トランスフォメーション。変容、変態、変形。姿形がかわること、というよりも「移り変わる」こと。何かになってしまう(完了系)ことよりも、状態が移りゆく(連続する流れの中)こと
視覚が他の感覚に対して優位なとき、万物は静止する
子音、音素、表音文字であるアルファベット(それまでの、意味のある文字とは違う)という抽象概念 それまでは音と意味は繋がっていた
知覚内容ーパーセプトー(経験の基礎)と概念ーコンセプトーが、アルファベットの発明によって切り離される
p.26~29
視覚的空間の地の抑圧--文字(アルファベット)は透明な文字
知覚内容(パーセプト)を持たない概念(図) ということは知覚内容は「地」?
視覚は、図を地の上に孤立させる 視覚だけが持つ特徴
意識(図)と無意識(地)の分離
内的経験(想像上の、抽象的な)と外的経験(ことばによる=音や文字)の分離
ミメーシスは、文字以前の人々にとって表現の形式であるだけでなく、「すべての人々の学習のプロセス」
相手と「一体化」することで、相手を知る(=変身)
プラトン「ミメーシスによって、人々は本人の人格や現実の状況を失い、知覚したい対象そのものになって詩の舞台の一部となってしまう」「ミメーシスとは部族を結束させる口誦の絆」センチメンタルな共感の力?
ハヴロック「彼ら自身がアキレウスとなり、詩を記憶する並外れた能力を得た代わりに客観性を犠牲にした」「プラトンは、経験を記憶する代わりにそれを検証し、再配列するよう求め、ただ語るのではなく、自分の語ることについてよく考えるように求める。人々は経験と一体化するのではなく、経験から自分を切り離して、それを再興し、分析し、評価するような『主観』に自らなるべきと言う」自分(主観)=図、経験=地
p.29~31
「視覚的な言葉」=図と地が分かれた言葉 概念だけを伝える透明な言葉
読む=レコードの再生
孤立したただ一つの感覚ー視覚を通じて、発話(スピーチ)の音は再生される
どんな発話の音でもアルファベット(=音素をあらわす文字)に置き換えることができる力
空間は球形で多感覚的かつ多次元的であるという聴覚的な古い「常識」
視覚空間の特徴 1静止 時の抑圧をともなう感受性の分離によって可能になる
一方が他方を「表している」だけで、知覚内容と概念が相互に影響しあっている(動的な関係)わけではない
p.31~32
抽象的な幾何学空間 「存在」についての形而上学的関心
弁証学と幾何学が、視覚の抽象空間を開いた
それ以前は誰もがプロテウスだった
ミメーシスは、制作過程から具体的な擦り合わせになり、「しあげ」の手段の一つに過ぎなくなった?
存在についての古くからの経験は視覚空間として新しい条件下で回復された
p/32~33
ロジックとは、前提もしくは前提の連言の中に結論が包含されていることの隠喩
前提から結論を引き出してくるために行われる発話
「連結命題」
こうして推論はすべて視覚的空間の特性を利用しているー静的、幾何学的、連結的
p.34
聴覚空間ーアインシュタイン的空間
「視覚空間は眼が他の感覚から抽象され引き離された時に、眼によって想像され知覚される空間である」 他の諸感覚との相互作用から視覚が抽象化された人工的空間
アルファベットがその起源 「表音アルファベットを持たない他のどんな文化にも抽象化は生じない」 え、じゃあ日本語は? 日本語に表音アルファベットはないです、音素ではなく音節を表記する仮名しかないです ナショナリズムにならないようにしたい
視覚空間は地のない図を想定するが、自然にはそんなものはないし、それどころか図なんてものはない。ただ多様で非連続的な、動的環境のモザイクがあるだけ
p.35~36
視覚空間を用いる者にとって、自然は、抽象化という手段を用いれば多様性と非連続性(お互いがつながるための論理的・必然的な理由などないこと)の排除が可能な図の集合として映る。
理性的な空間は、静止を作り出すために「ハコ」を作り、そこにある空間を閉じ込めることで生じる。
視覚の図は、光速という地を持っている。相対性理論はそれを突き付けたため、視覚空間の君臨を揺るがすセンセーショナルなものになった。
グーテンベルグの印刷術は、視覚空間を大いに拡大した。
p.36~37
ジョン・ロック『人間知性論』
宇宙は地のない図、視覚空間の特徴と同じ 宇宙は「純粋空間」
空間がただの「ハコ」であって、内容物によって変更されない静的なものであること、そして分離できない連続体であるということ
p.37~39
均質さ、無限性、連続性ー無限可分性
「空間の中に物が2つあり、その2つの間に何もない(無がある)なら、その2つの物体は必ず触れなければならない」純粋空間 運動させられた物体は妨害がなければ運動し続ける空間
ロックの時間についての概念 視覚空間の特徴
「時間一般と持続は場所と広がりに同じ」「無限から境界標で仕切られ、残りと区別されたもの」「持続と時間の無限(抑圧された地)の中で有限な実在(図)の相互の位置を指標するために使われる」
p.39~40
広がり=空間についての長さの観念は、どちらの方向へも向けられ、形と幅と厚さを作る
持続=時間は無限に伸びる一直線の長さで、重複も変動も形も許さない
「自然の表面に被せられた仮面」(ターベイン)
幾何学モデルというメタファー 神聖なもの ピュタゴラス、ユークリッド、デカルト、ニュートン 抽象、演繹
幾何学モデルは、視覚空間の特性、地の抑圧と図の分離の上に築かれている
そして「延長」が第二の特徴 今や物質世界は全てそのように観られている
p.41~44
幾何学モデルに最後に「運動・活動」が取り入れられ、幾何学モデルは機械モデルと一体になり、幾何学は物理学になる
「いったん精神が自然の中に吸収されてしまうと、精神は自然界の性質を帯びることになる」
「個々の部分が他の部分と正確に共働する機会として宇宙秩序が登場すると、精神もまたその ” 自然 ” の一部となる」
視覚空間と紙の同一視 神がこの世界に働きかけているという中世後期のイメージ、「光学」から引出された心象を回復する
遠近法、光学、恩寵
光の自然界に対する関係は、抽象空間の幾何学に対する関係に等しい つまり、自然界においては光が神、幾何学においては抽象空間が神? 広大さと永遠
p.44~45
崇高なものや巨大なものに対する賛美から、混乱と無秩序の壮大さへ、壮大なものへの価値観が反転(ただし「ロマン」を感じるという点は共通) 例:アルプス山脈
「ロマン」は、ある事物から想起された概念がその事物として再現されること(例:ゴシックロマン)
「ロマンティック」は、主観的な印象と「それ自体」(廃墟や荒地や詩など)の内容を分けて考えることができるようになったからこそ生まれた
文字以前の人々が経験する聴覚空間は空間認識の自然な様式 いかなる技術の副作用でもなかったから ことばを「技術」とせず、所与のもの、「人間」の条件とするならばだけど--ああでも、ことばじゃなくても音ではあるのか……
ユークリッド以前の空間感受性 電気技術の副作用としてこの感受性が再登場してきた
p.46
「ある法則に従って起きることは原因を必要としない」コリングヴッド
p.46~47
視覚空間=ユークリッド空間
アルファベットの普及によってもたらされた知覚の変化は、包括的な聴・触覚の感覚の統合を追いやった
p.47~
聴覚空間はその性質上視覚空間とは対照
聴覚空間は他の感覚によって常に貫かれ、非連続的(カオス)、非均質的、共鳴的で動的 内部で図と地が常に互いに生成変化し合う動体
アリストテレスは、新しい意識の形式を使いながら、口誦文化の観念を維持・刷新していたハイブリッド
「無限定」はユークリッド空間ではなく、始まりも終わりも、囲いも境界もない(=端もなく、仕切りもない)球形の空虚 そして空虚は、それを包み込む外側の空気から内部に吸い込まれる浸透的なもの
形相やゲシュタルトを与えるものは元素(部分)というよりも、むしろその元素間の間(関係)
空の機能は、もの同士を離れさせ、それらが内部で移動する場を提供すること
聴覚空間は、事物がそれぞれ独自の空間を作り出し互いに相手に変容と抑圧を迫るような球体構造を持っている
他の感覚を潜在意識の中に追いやるような視覚の圧力がなければ、諸感覚の相互依存関係は一定 つまり、それだけ視覚優位な世界になっていたということ!?
「諸感覚がともにダンスする」とはそういうことか。「聴覚」空間と言ってはいるが、実際は触覚・嗅覚、そして味覚や視覚ですらも「聴覚的に」包含する空間のことだと思う。「聴覚的に」というのはつまり、同時的で、カオスで、耳を塞ぐことも音を分けることもできないということ(まあ人間の脳みそは感覚を分けてはいると思うけど、それだって図と地は恣意的に選べるということだから、聴覚空間=自然 の中に 理性=視覚的世界観 を持ち込む人間、という構造なのでは。それでミメーシスは、対象が経験したであろう聴覚空間全てを疑似的に経験することなのでは)
キーワード:吟遊詩人、ミメーシス、アリストテレス